光と雫
今日もはらはらと、小さな雨の雫が舞い降りている。少し涼しい日だ。
王子 守良は、魔女と別れた後、城の中を何やら慌てた様子で走っていた。
「大臣!!大臣!!」
もちろん、これは彼の演技なのだが、、、、、、
「どうなさいました?! 王子!!」
大臣が廊下の突き当たりからひょっこり顔を出した。
「父上と母上が!!」
「何事ですか?」
「庭に、、、、父上と母上があぁっ!!ととにかく僕と来てくれ!!」
そういわれ、庭に来て見ると、其処にはゴロリと2体の死体が転がっていた。
「なっ、、、、、」
大臣は驚いて言葉にならなかった。
血生臭い匂いが微かに漂っていた。
王子は、ふと気づいたように、
「これは、、、、」
王子は其処にハラリと落ちていた紙切れを拾った。
そして、大臣の前に差し出した。
それは、王と后の残したメモのようになっているが、実際は王子の書いたもの。
「なっなんと!?、、、」
王の筆跡と似せて書いたのか、大臣は何のためらいも無くそのメモの文字を、
王のものだと思った。
メモにはこうある。
『すまない。私はもう疲れてしまった。このような形で、今まで信頼関係にあった君たちと別れるわけであるが、
どうか許してほしい。私は妻と、楽になることに決めた。この国の政治は、息子、守良に任せることにした。
守良、突然で申し訳ないが、お前ならできる。』
こんなんでよかったか、、、?
王子は大臣とは違う意味の冷や汗を流していた。
「これは、、、、、これは、、、、、。」
大臣は一度言葉を切った。
「つまり貴方様がたったいま王になられたと、、、?」
「らしいな。」
冷静に答えたが内心喜んでいた王子、、、いや王であった。
「報告してくれ。皆に。」
守良が少し楽しそうに言った。
「はい。かしこまりました。」
大臣は、誠意と敬意を込めた礼をした。
偽りの死体と、
偽りの王に。
守良は気づかれぬよう、大臣を見下ろしながらニタリと笑った。
そして、庭から城内に入っていった。
守良はこのまま、城から出ようと、出口に向っていたが、
途中で、姫、雫とすれ違った。
雫は、守良に気づくと、駆け寄ってきて、
「お父様とお母様に何があったのですか?!」
と、血相を変えて言うものだから、
守良はニヤリと笑って、、、、
「、、、、言ったでしょう?」
彼女の耳元で囁いた。
雫は、両手に手を当てて
「まさかっ!!」
と言って、守良が元来た道を走っていった。
守良は雫の背中を見送ってから、再び歩き出した。
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